俳優・シンガーソングライター京本政樹ファンサイト

NHK大河ドラマ「草燃える」

1979年1月7日〜12月23日に放送されたNHK大河ドラマ。
(京本政樹さんの出演回は48話~最終話)

スタッフ

製作総指揮:斎藤暁
原作:永井路子
脚本:中島丈博

キャスト

源頼朝:石坂浩二
北条政子:岩下志麻
北条義時:松平健
北条保子:真野響子
伊東佑之:滝田栄
源頼家:郷ひろみ
茜、小夜菊:松坂慶子
安達盛長:武田鉄矢
三浦義村:藤岡弘
公暁:堀光昭
駒若丸:京本政樹
ほか

解説

いいくに作ろう鎌倉幕府、と子供の頃に覚えた人は多いはず。いいくに1192年に源頼朝が征夷大将軍に任官され始まったとされる、鎌倉時代。その鎌倉時代の創生期を源氏三代を中心に描いた第17作大河ドラマ『草燃える』。
1年という長いスパンの大河ドラマでは、歴史上の1人にスポットを当て、その人物の幼少から死までを描くことが多いですが、この作品では源頼朝の一代記ではなく、頼朝と妻・政子を中心に北条家や御家人など東国武士達のドラマとして仕上がっているのが 特徴です。これは、第15代大河ドラマ『風と雲と虹と』で後半多くの演出を手掛けた、今作のチーフディレクター大原誠氏の「鎌倉幕府樹立は平将門の弔い合戦、東国武士の悲願」という思いが強く反映されたものとも言えます。 そのため、源氏一家だけでなく北条氏を中心とした鎌倉御家人同士の争いや、鎌倉と朝廷との駆け引きに絡む朝廷の動きなどが丁寧に描かれ、1年を通じ非常に見ごたえのあるドラマになりました。
また、権謀術数を弄し鎌倉幕府第2代執権として、北条氏による執権政治を確立させた北条義時にスポットを当てた貴重な作品でもあります。 純朴な好青年から数々の政争にもまれるうち、次第に冷徹な権力者へと変貌していく様を見事に演じた若き日の松平健さんの熱演は必見です。

大河ドラマといえば、何といってもそうそうたる出演者が魅力のひとつですが、大河常連がズラリと並んだ主要キャストのみならず、多彩なゲストも話題となりました。
ほんの一例を挙げると。悲劇の姫君・大姫には『鳩子の海』で一躍注目を集め、「山口さんちのツトム君」の大ヒットで当時国民的アイドルだった斉藤こず恵、静御前には前年の朝の連続テレビ小説『おていちゃん』でヒロインを演じた友里千賀子、 木曽義孝の側近・海野幸氏に少年ドラマシリーズ常連の長谷川論とNHKゆかりのフレッシュな顔ぶれが並ぶ一方で、源義経には国広富之、源頼家に郷ひろみと人気絶頂のアイドルを起用。更に11PMのカバーガールとして 活躍していた、かたせ梨乃が盗賊一味・小観音役、火見王役で美輪明宏等、数え上げればキリがないくらい豪華な顔ぶれです。
その中でも『国盗り物語』以来の大河出演で大役に抜擢された郷ひろみさんの鬼気迫る演技は、大女優岩下志麻さんをも 唸らせたほど。当時、トップアイドルとして過密スケジュールをこなしながらの撮影だったため、劇中頼家が危篤に陥るシーンでは本当に寝入ってしまい、岩下さんに「よく眠っていたわね」と労われたというエピソードが残っています。


と、やたら前置きが長くなりましたが。京本さんはこの作品のラスト回前3話、第48回「船霊」、49回「実朝暗殺」、50回「三浦義村の策謀」、最終回「承久の乱」に出演されました。簡単に京本さん出演の回のあらすじを。

鎌倉では執権として事実上幕府の実権を握る北条氏により頼朝挙兵以来の御家人が次々と滅亡に追いやられ、3代将軍・実朝は将軍とは名ばかりの状態と果てし なく続く政争に嫌気がさし、政治への興味を失っていた。そんな折、都で僧侶としての修行を積んでいた頼家の息子・善哉が公暁(堀光昭)と名を改め鎌倉へと 戻ってきた。
政子はすっかり成長した孫との再会を心から喜ぶが、公暁の存在が幕府に不満を持つ者たちの結束へつながることを恐れた 義時は、鶴岡八幡宮別当をあてがい追い払おうとする。不本意極まりない公暁だったが、乳父(めのと)である三浦義村(藤岡弘)に時を待てと諌められ、八幡 宮にて千日修行に励むことに。とは言うものの表向きは修行に勤しむふりをし、その実近しい僧侶らを集め武芸の鍛錬に励みつつ実朝を討つ計画を練っていた。
一方、依然鎌倉倒幕を企む後鳥羽上皇(尾上辰之助)は、実朝を右大臣に任命し、位打ち を狙う。実朝右大臣拝賀の儀式を、打倒北条の好機と狙う三浦義村は、公暁に実朝のみならず義時をも討つよう勧め、京より弟・胤義(柴俊夫)を呼び寄せ密かに挙兵の準備を進める。
一方、義時は弟・時房(森田順平 )が鶴岡八幡宮に忍ばせた僧を通じ三浦が公暁を使い実朝暗殺を企てていることを知る。 日々、死の影に怯え生きる気力を失っていく実朝を何とか救おうと願う音羽(多岐川裕美)。いつしか二人の間に本当の愛情が芽生始める。
音羽の願いむなしく果たして拝賀の儀式の日、小雪がちらつく中、実朝は鶴岡八幡宮の石段で暗殺される。
しかし、義時暗殺には失敗したため、三浦は公暁を裏切り、館に入れず、その門外で誅殺し、その首を義時に差し出したのだった。


デビュー早々にして大河ドラマに出演となった京本さん。そのきっかけは名作『男たちの旅路シリーズ第四部・車輪の一歩』オーディンションの際、NHKの廊 下を歩く京本少年を『草燃える』プロデューサーが探していた役にぴったりと見そめたという。世の中そんなにうまくいくはずないでしょ、と言いたくなるよう な 嘘のような本当の話がなんとも京本さんらしいです。ちなみにこのエピソードについては自著『META−JiDAIGEKI』に記載されています。
そんな恐ろしいまでの強運に恵まれて演じたのは、三浦義村の息子・駒若丸。
政子より養育を託された三浦家で幼い頃より兄弟のように育った善哉を成人してからも「御曹司」と呼び、京より戻った公暁を大好きなお兄ちゃんが帰って来た という嬉しさを隠しきれない弟のように出迎える駒若丸。公暁の方は、幼い頃遊んだ駒若丸が美しく成長した姿に目を奪われ、変わらず自分を慕ってくる様子に 「女なんかつまらんぞ。勝手に 嫁なんかもらったらこの俺が許さんぞ」と意味深な台詞を吐き、程なく二人は道に外れた仲に落ちることに。リアルタイムで見ていた当時は、子供故二人の関係 には全く気付きませんでしたが、改めて見返すと父の前でも人目憚らず仲睦まじく振る舞う様子に、思わず見ている方が照れてしまうほどです。

この公暁と駒若丸の再会のシーンで初登場した京本さん。衣装合わせの際、烏帽子をかぶった姿が「似合う」と周囲の人に絶賛されたそうですが、本当に惚れぼれするくらいよく似合っています。
朝の修行が終わるのを縁側に腰かけて待つ際の、再会するのが待ち遠しいという仕草や、いざ本当に再開した時の喜びに溢れた表情など、すべてが初々しさと爽 やかさに溢れています。どの表情も捨てがたいですが、特に上にあげた台詞を公暁に言われ、困ったように一瞬目を伏せすぐに目をしばたかせる表情がとにかく 絶品です。その何とも言えない色香は 公暁がそう言うのも無理からぬ、と妙に納得してしまいます。
しかし、そんな二人の思いは父・義村の一族が生き延びるための裏切りにより、無残にも引き裂かれることとなります。実朝の首を手に三浦家の門を叩く公暁の 前に立ちはだかる義村の命を受けた家臣。傷つきながらも必死に駒若の声を呼ぶその声を聞くまいと耳を塞ぐ胤義と駒若丸。遂に息絶えた公暁に「御曹 司ぃぃぃ」と絶叫するシーンは、あれだけ慕っていた 相手にどうすることもできない己の無念さがひしひしと伝わり、身を引き裂かれるような痛ましさに思わず目頭が熱くなります。
デビュー間もない頃のため、まだあの凛とした所作はないものの、何気ない横顔の美しさに目を奪われます。個人的に右大臣拝賀の式典に父とともに参上し、た だならぬ様子に「父上」と不安げに義村の袖を引く時の表情・声音がたまりません。声といえば、全編まだ少年らしさが残るぷっくりとした唇から発せられる柔 らかな声にもうっとりさせられます。

また、この実朝暗殺に絡む一連の義村と義時のやりとりは、お互い腹に一物どころか二物もそれ以上もありそうな、狐と狸の化かし合いを遥かに凌ぐ白々しさ が、 見ている側の背筋を凍らせるほどの静かな迫力に満ち溢れており、必見です。かつては無二の親友であった十郎(伊東祐之の幼少名)と小四郎(義時の幼少名) の直情的な対峙とは対照的で、もし計画が事前に義時らに漏れていなければ、平六(義村の幼少名)は義時に代わり彼以上の冷徹な執権になりえたかもしれな い、と思わせられます。


ビデオテープが非常に高価な代物であった1970年代。テレビ局は1本のビデオテープを大事に上書きしつつ使いまわしていた状況でした。そのため、長い間 この『草燃える』はNHKにも全話現存していない状況でしたが、2009年にCSにて一部放送されたことがきっかけとなり、『黄金の日々』や『風と雲と虹 と』同様、全国から貴重なテープが提供され目出度く 全話が揃うこととなりました。京本さんの初々しい姿はもちろん、大河ドラマとしても非常に優れた作品が後世に残ることに感謝したいと思います。

文:紫苑

NHK大河ドラマ総集編 草燃える [DVD]

  • 販売元:アミューズ・ビデオ( 2003-06-27 )
  • 時間:351 分
  • 3 枚組 ( DVD )

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