俳優・シンガーソングライター京本政樹ファンサイト

大映「雪華葬刺し」

1982年11月27日公開の角川映画

スタッフ

監督:高林陽一
原作:赤江瀑
脚本:桂千穂
撮影:藤井秀男

キャスト

若山富三郎
京本政樹
宇都宮雅代 他

sekka

解説

雪華葬刺(せっかとむらいざし)。京都を舞台に彫り物に魅せられた男女の哀しい物語描いたこの作品は、全編美しくも幻想的な映像で彩られ、カンヌ映画祭に『IREZUMI』のタイトルで 出品され、高い評価を得ました。
原作は赤江瀑の短編集『青帝の鉾』(文春文庫 現在は絶版)に収録された同名小説。
京本さんの公式映画デビュー作品としても知られ、数年後に大ブレイクを 果たした折にはテレビ放映やリバイバル上映された地域もあり、また、近年でも深夜枠にひっそりテレビ放映されたりと、古い作品ながら未だに根強い需要がある作品です。

茜(宇都宮雅代)は夫の藤江田(滝田裕介)とともに京都行きの車中にいた。5年ぶりの京都に思いを馳せる彼女の脳裏に浮かぶ1人の影。
かつて彼女は、上司であり恋人でもあった藤江田のたっての願いにより、 その雪のように美しい背中に刺青を背負うことになった。彼女の背に墨を入れたのは日本一の彫り物師と謳われた大和経五郎(若山富三郎)。とある事情から20年来、その筆を折っていた経五郎だったが、 藤江田が予言したように、茜の美しい肌に魅せられ再び筆を執ることを決心する。墨入れを始めるにあたり、彼は茜に自分の流儀は特異なものである故、何が起きても逃げ出さないよう覚悟してほしいと頼む。 訝しむ茜の前、彫経(ほりきょう)の弟子だという春経(京本政樹)が現れ、それと同時に始まった経五郎の流儀とは・・、凡そ常軌を逸した想像を絶するものだった。


ごく僅かな登場人物によって綴られる、1人の彫り物師を巡る壮絶な物語。狂おしいほどに刺青という世界に魅せられてしまった、男の悲しくも激しい生き様とそれに振り回される形となってしまった 彼にまつわる人々の哀しさに胸を打たれます。
話としては重く苦しい内容でありながら、冒頭のタイトルバックで降りしきる雪が象徴するように、激しさの中に儚くも幻想的な 美しさが漂う作品です。
現在から過去、そしてまた現在へと時間軸が目まぐるしく変動するこの作品は、幻想的な映像の美しさと過去部分での極端に少ない台詞による、静かな、 しかし狂おしくも激しい描写に引き込まれる内、 いつしか時間の存在を忘れ、突然引き戻される現在の世界での出来事に、それが過去の話であったことを思い出させる、という不思議な感覚を呼び起こしてくれます。
また、随所に見られる京都の町並み・経五郎の自宅近辺の佇まいの美しさは、当時の京都の面影を伝えてくれる貴重なシーンであるとともに、月日の流れの速さ・残酷さを思い知らされます。

さて、この作品で京本さんが演じたのは、主要登場人物の1人である春経。憂いを含んだ表情が印象的な、それでいて瑞々しい若さがほとばしる青年です。
作品の性質上、褌姿やほぼヌードでの登場場面が多く、ファンとしてはどぎまぎさせられる部分も多々ありますが、同じ女性として目を見張る宇都宮雅代さん にも負けない肌の美しさには、ただただ目を奪われます。
出番が多く、見どころはたくさんですが、特に茜との絡みのシーンでの、表情でも声でもなく腕の動作だけで様々な感情を表現するくだりは必見。 かなり際どい描写にも関わらず、決して下品にならず、純粋に美しいと思わせてしまう魅力は、いけないと思いつつかなり嵌ります。茜の艶やかで歓喜に満ち溢れた表情と合わせて必見です。

また、憂いに満ちた表情があるかと思えば、後半では目の覚めるような晴れやかな眩しい笑顔が拝めたり、子供のような仕草も見られたり、と表情・仕草など色んな 面で見どころいっぱいです。個人的には、経五郎の家の前で伸びているシーンの足の開き方の愛くるしさがたまりません。コンバースのスニーカーがよく似合い、 一途で無鉄砲な少年ぶりが窺えて、それに続くご飯をかき込むシーンとともに、重苦しいこの映画の中で唯一微笑ましく、ホッとさせられるシーンです。
他には隠し彫りをする場面での『雪華です』という声音の響きの心地よさもかなりお薦めです。この時の筆を持つ手つきも、彫り師見習いとして道具を大事にする 心持が伝わってくるようで見逃せません。

そして、キーワードでもある雪華。この作品で初めてその存在を知りましたが、雪国在住の身ではあまり嬉しくないものでもある”雪”に こんな美しい面があるのか、ということを改めて教えてもらいました。

近年自身の着物ブランドを立ち上げた京本さん。そのブランド名は”雪華”。八犬伝や仕事人とは違った意味で、ご自身もきっと思い入れのある作品なのかな、と思わせる 選定でした。
なかなか一口で語るのは難しい作品ですが、名優・若山富三郎氏の熱気溢れる演技を始め、初々しい京本さんの見どころ・魅力がたっぷりつまった、 数年後の『オイディプスの刃』ともども、改めて赤江世界を体現できる貴重な役者であることを実感させてくれる1本です。

文:紫苑
絵:藤枝

雪華葬刺し [DVD]

  • 販売元:角川書店( 2012-10-26 )
  • 時間:102 分
  • 1 枚組 ( DVD )

Pagetop