2003年1月10日〜3月21日に放送された連続ドラマ
金曜ドラマ22:00〜22:54(全11回)
スタッフ
脚本:野島伸司
プロデュース:伊藤一尋
演出:鴨下信一、吉田健、今井夏木
音楽:千住明
主題歌:森田童子「僕たちの失敗」
制作:TBSエンタテイメント
製作:TBS
キャスト
湖賀郁巳:藤木直人
町田雛:上戸彩
工藤紅子:ソニン
上谷悠次:成宮博貴
手島絵美:眞鍋かをり
江沢真美:蒼井優
村松保:大倉孝二
正太:斉藤祥太
藤村知樹:京本政樹
橘百合子:眞野あずさ
あらすじ
私立日向女子高校に通う町田雛は、保健室で顔見知りになった同級生の工藤紅子と繁華街に出かけます。些細な事で紅子と喧嘩別れした雛は、何気なく入ったゲームセンターで湖賀郁巳と出逢う。意気投合した二人は、郁巳のアパートへ。帰ろうとする雛を、「朝まで一緒にただ横で眠って欲しい」と郁巳は引き止めます。
朝帰りした雛は、郁巳が新任の数学教師として教壇に立つ姿に驚きます。しかし、郁巳はまるで雛の事など知らないかのようなそぶり。
郁巳は科学省のエリートだったのだが、訳あって教師に転職したのだった。
ある日、授業中に倒れた雛は、運ばれた病院で女医の橘百合子と郁巳の会話を聞いてしまい、自分があと半年の命だと思い込む。本当は、郁巳の話だったのだが、自分が感じた絶望を同じように感じ、自分に依存している雛の中に癒しを見つけた郁巳は、本当のことを言い出せなくなっていた。
一方、紅子は街で男たちに絡まれていたときに助けてくれた、ホストの上谷悠次と知り合う。騙されていると知りながらも、悠次の元に走っていく紅子。悠次の中に自分と同じ業を見た藤村知樹は、紅子を救いたいと思います。
ある日、悠次の部屋を訪れた紅子は、突然部屋に怒鳴り込んできた男たちに強姦されてしまいます。それは、悠次が紅子を風俗店で働かせるために仕組んだ罠だったのでした。
悠次に貢ぐため、風俗店で働き始める紅子。そんな紅子のために藤村は、毎日紅子の店に通い英語の授業をするのだった。
雛と接する事で、郁巳は精神のバランスを保つ事が出来るようになります。「生きている間に恋愛したい」と言い出した雛に、郁巳は自分の甥の正太を紹介する。郁巳に好意を抱いていた雛は、拒絶し続ける郁巳に傷つき、正太と付き合い始めます。二人が一夜を共にする事を知った郁巳は、止めに行き、自分の気持ちに気が付きます。
ついに結ばれた郁巳と雛は、束の間の幸せな時間を過します。しかし、悠次によって郁巳が吐き続けた嘘が雛に知らされてしまうのです。
真実を知り、郁巳を激しく拒否する雛。雛を失った事で更に深い絶望に落ちて行く郁巳。事実を知らせた悠次に郁巳は、藤村は紅子に指一本触れていないと告げます。
藤村は同僚の手島絵美から求婚され、それを受け入れる。紅子には悠次の本性を聞かせ学校に戻る事を説得するが、紅子は聞き入れません。
その夜、藤村の前に現れた悠次は、紅子をレイプした際に撮ったビデオがあると藤村に告げる。自分の罪を悠次の中に見た藤村は笑いが止まらなくなる。
雛は、孤独だった郁巳の心情を理解し必要とされている事を感じながらも、郁巳の抱える『死』に対する恐怖感から心を開けないでいた。
藤村や橘に説得された郁巳はようやく雛を諦め、病状の進行もあり、最後のときを橘と共に彼女の別荘で過す事にします。退職する郁巳に、「暇なときに見てくれ」と藤村は、自分の過去の罪を撮ったビデオテープを渡します。
手島から渡された、郁巳の謝罪の手紙を読んだ雛は、やはり郁巳を愛している事に気付き、別荘に迎えに行きます。追いすがる橘を振り切り、雛と共に東京へ帰る郁巳。その帰り道、郁巳の携帯に藤村からの電話が。「僕を思い出にしないように、渡したビデオテープを手島と紅子に見せてくれ」
紅子を救うため、悠次の部屋に乗り込んだ藤村は、ゲームや虚構の中でしか遊べない悠次を嘲笑い「本物の狼が来たぞ」と、紅子が汚されていない事実を突き止めます。自棄になった悠次は、手にしたおもちゃのナイフを藤村に突き立てますが・・・!
解説
1993年に放送され、大反響を呼んだ「高校教師」がキャストを一新して帰ってきました。
93年版と同じ「日向女子高校」を舞台に、あの事件から10年経った、新しい物語が始まります。
何もかも変わっている日向女子高校に、ひとりだけ変わらぬ存在として、京本さんが登場します。
そのスタイルも雰囲気も何もかも変わらない彼が、唯一、この物語が『高校教師』なのだと確信させてくれます。
あれから10年。前作の藤村知樹の衝撃は高く、卑劣で汚いやり口に心の底から憎んだ女性も多かった事でしょう。
いくら大好きな京本さんが演じているとはいえ、新庄先生によって加えられた制裁も「それでは足りん!」と思ったものです。
あの事件が表沙汰にならなかったお陰か、藤村先生はなんと学年主任と生活指導まで勤める信頼厚い教師に変貌していたのでした。そんな・・。
10年間の間に何があったのか?きっと何も無かったのでしょう。
何も無かったが故に、犯した罪の重さに苦しみ、消せない過去にひとり苦しんだ藤村知樹の姿が見えるような気がします。
何も無い日常の中で、己の中の凶気が頭を擡げる度に仮面を被り続け、長い月日の中でどれが本当の自分の顔なのか判らなくなってしまう程にひた隠しに隠した本性。あの準備室のロッカーに、いまだに仕舞い込んだビデオテープは、そんな彼の姿を物語っているようです。
藤村が悠次と出逢ったとき、10年間止まっていた彼の中の時計が再び動き出します。
紅子に対する仕打ちに、カッとなった藤村が悠次を殴り続ける場面は、まるで己を殴るような切なさが伝わってきました。
また、レイプシーンを撮ったビデオがあると告げられ、思わず笑い出す姿は、儚さが漂い、消えてなくなりそうに見えました。
あの笑いとは対照的な、打ちのめされた藤村を感ぜずにはいられませんでした。
回を追うごとに、藤村が破滅に向かって進んでいくのをやめて欲しくて堪らなくなります。
あんなに卑劣な男だったのに。
出演者の大半が「病んでいる」この物語の中にあって、唯一健全な存在である手島絵美と絡ませる事によって、藤村の異常性が益々際立ちます。「アンタが思ってるような生易しい人間じゃないんだよ」と思わず突っ込みを入れたのは私だけではないはずです。
それなのに、後半に進むに従って、仮面を被り続けてもいいから手島と幸せになってくれと願う一方で、紅子を救い出し、紅子と幸せになる道は無いのか?と思い始めた自分は、すっかり京本さんの術中にはまってしまったようです。
因果応報。ひとりだけ物語の結末を迎えていなかった藤村知樹の物語が、10年の月日を経て決着が着こうとしています。
何人もの女子生徒をレイプし続けた藤村が、たったひとりの女子生徒を救う事によって、自らの罪を購おうとしているのです。
嘘で固めた物語の中に住み続け、自分自身を知ろうともしない悠次に「本物の狼が来たんだよ」と迫る場面は、鳥肌が立つほどの恐怖感と因果応報が達成された爽快感がありました。
この10年間で藤村知樹が初めて「生きた」と言える瞬間だったのではないでしょうか。その瞬間に死ぬわけですが。
やがて、湖賀に全てを告白し、暖かい涙を流しながら死んでいく姿は、誰よりも自分自身を罰したかった藤村の願いが叶った瞬間でした。
きっと10年前の羽村のあの事件のときから、自らを死を持って罰する事を考えていたのではないでしょうか。
『死』に対する強烈な憧れと易々と死ぬ事ぐらいでは償いきれない罪の重さに葛藤し続けた藤村が、やっと解放された瞬間、そんな風に私には見えました。
「僕を愛さない女たちが悪い」と欲しがるばかりで与える事を知らなかった彼も、自分の全てをかける事によって深い充足感を得た。
人が本当に生きるためには何が必要なのかを教えてもらったような気がしました。
たとえそれが被り続けた仮面のひとつであっても、それも藤村自身だったと、全てを知っても彼を許し受け入れた手島。
死をもって自分を救ってくれた藤村を悼む紅子。
二人の歌う「仰げば尊し」が哀しく響く中で、許されるはずの無い藤村という人間が救われたのを感じ、何度見ても涙が溢れてきます。
前作よりも、凄みを増した藤村知樹。
凶気の中に妖しさを湛えて帰ってきたその姿は、代表作とはいえ、素直に喜べなかったファンも多かった中、最後にはこの役を京本さんが演じてよかった、と思えるような仕上がりでした。
10年と言う長い年月を経て、やっと前作も含めて、これぞまさに京本さんの代表作といえる作品だったとも思います。
物語の主軸である、雛と湖賀の物語も、前回よりも深刻に「依存と共生」というテーマも交えて目を離せない展開になっています。
現代劇における京本さんの代表作のこの作品、見返すたびに京本さんの演技の細かさに驚かされ、引き込まれてしまいます。
役者・京本政樹の確かな演技力を十二分に堪能できる作品と言えるのではないでしょうか。
文:桂
絵:だんな