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日本テレビ「柳生武芸帳・柳生十兵衛五十人斬り」

1990年10月1日放送の日本テレビのスペシャル時代劇。

スタッフ

脚本:鈴木則文、大津一瑯
監督:原田雄一
音楽:横山菁児

キャスト

柳生十兵衛:松方弘樹
柳生宗矩:山村聰
柳生又十郎:加納竜
夕姫:斉藤慶子
松平伊豆守:あおい輝彦
春日局:草笛光子
大久保彦左衛門:長門裕之
真田大助、名古屋山三:京本政樹
神子修理之介:中条きよし

解説

時代小説の傑作、「柳生武芸帳」(五味康祐著・新潮文庫刊)をベースに、大阪夏の陣で淀君や大野治長とともに自害した豊臣秀頼、真田大介が生きていたという設定で、 桔梗之巻、浮船之巻、水月之巻この3つが揃えば徳川幕府の安泰をも揺るがすとも言われた、柳生武芸帳を巡る島津家と柳生一族の攻防を描いた痛快時代劇。

『柳生武芸帳』といえば、何といっても近衛十四郎主演で1960年代に映画やテレビドラマ化された作品が有名ですが、この作品ではその近衛氏の長男・松方弘樹さんが父の当たり役である柳生十兵衛に扮し、 力強くも人間味溢れる十兵衛を見せてくれています。

時は三代将軍・徳川家光が即位して間もなくの頃。参勤交代等を定めた武家諸法度の制定を巡り、外様大名を始めとする諸藩から反発の声があがる中、この法令 を作成したと言われる幕府お目付・柳生但馬守(山村聡)の門前に、薩摩へ遣わした5人の首が供えられる事件が発生。時を同じくして薩摩藩主・島津義弘(高 橋幸治)が参勤交代の取消と今後外様大名の取り潰しを しないという確約を求めて江戸城へやって来る。どちらの要求も突っぱねられた義弘は、幕府との対決も辞さぬ覚悟でその場を後にする。
同じ頃、大奥に何者かが侵入。賊の狙いは柳生武芸帳にあると踏んだ但馬守らは、一計を案じ日光東照宮から偽の武芸帳を盗ませ後を追うことに。島津の手の者と思われた賊は、今江戸で最も評判の出雲の阿国一座と判明。
実は阿国一座は旅芸人を隠れ蓑に、密かに豊臣再興を願い武芸帳を狙う名古屋山三(なごやさんざ)=真田大介(京本政樹)一味だった。
十兵衛から報告を受けた但馬守は、大介とともに豊臣秀頼も生きていると確信。密かに秀頼討伐を命じられた十兵衛は、当時鎖国を守り鉄壁を誇る薩摩藩へと単身乗り込む。

島津vs柳生の争いを軸に、豊臣への忠誠心から武芸帳奪還及び柳生一族への復讐を誓う真田大介と彼を慕う元真田家草の娘・阿国(佳那晃子)、己の野望達成 の為に島津の配下となる元竜造寺家家臣・神子修理之介(中条きよし)、お家再興を胸に十兵衛への恋慕を守り続ける竜造寺夕姫(斉藤慶子)、戦火を生き延び て尚、戦の道具とされる悲運の将・豊臣秀頼(金田賢一)ら 様々な人間の生き様を描いたこの作品は、随所に激しい立ち回りを盛り込みながら、各人の魅力を引き出しつつ最初から最後までテンポのよいストーリー展開 で、飽きることなく楽しむことができます。
見どころは何といっても、冒頭から何度も見られる激しい立ち回りの数々。特にサブタイトルにもなっている、クライマックスで十兵衛が五十人を1カットで斬り倒していくシーンは、 松方さんはもちろん、福本清三さんを始めとする斬られ役の方々との息詰まる激しい死闘は必見です。

さて、この作品で京本さんが演じたのは、上にも挙げたように真田幸村の嫡男・大介。父の敵を果たさんが為、武芸帳奪還に奔走し、島津の元でいよいよ戦の旗 を揚げようとした矢先に当の主君・秀頼に諭され、1人の男に還り阿国と幸せを築こうとした矢先に神子の野望の手にかかる悲運の男。
忠義を重んじながらも、若さゆえやや血気に逸る嫌いがある大介を様々なサービス(?)シーンを披露しつつ、文字通り身体を張って熱演しています。
役柄の設定上、全編ポニーテールで立ち回りもたっぷりという、それだけでもとても嬉しい上に、更に忍びのシーンや女装、華麗な歌舞伎姿まで披露してくれる、というファンにとってはもうたまらない、かなり美味しい役どころです。
特に冒頭の大奥に忍び込むシーンでの勝気な表情で鉢巻姿に短剣を凛々しく振りかざす艶姿や、歌舞伎のシーンでの薄紫を基調とした鮮やかな衣装での優雅な舞 いの美しさに釘付けになること間違いなしです。物語では、親分は阿国にベタ惚れですが、どう見ても山三の方が美女と思うのは私だけではないはず(^^ゞ。
もちろん、本職の立ち回りでの松方さんとの激しいやりとりも必見。
時に力強く、そして京本さんと松方さんならではの速さをたっぷり堪能してください。

この作品では、川に飛び込んだり、斬られて川に沈んだり、となかなかハードな撮影が多く、その分京本さんも気合を入れて身体を張って臨みましたが、時には色んなハプニングも。
休憩中に食べた弁当の青海苔がうっかり歯についていてNG、なんて微笑ましいものから、後半の神子に斬られるシーンでは、勢い余って川に予定より早く転落、危うく流されそうになるという、ファンにとっては冷や汗モノのエピソードが残っています。

戦乱の世に生まれ、激しい歴史の流れの中で短い生涯を終えた秀頼と大介。
「あの炎の中を逃れたお前と私はもう二度と人々が殺しあう戦に加担してはならない」という秀頼の台詞が胸に沁みます。
そんな彼らを利用し、己の野望か藩の存続に揺れながら、最後は秀頼の遺言により己の過ちに気づき後を追った島津義弘。武骨な老武将を嫌味なく見事に演じた高橋幸治さんの熱演も、個人的にとてもお薦めな見どころのひとつです。
また、密かなお楽しみとしては、エンディングの血判状よろしく出演者名の下にそれぞれの母印という、粋なタイトルロールが心憎く、思わずニヤリとしてしまいます。

悲しい物語だけれど何度見ても飽きない、時代劇が元気だった頃を懐かしく思い出させてくれる力作です。

文:紫苑
絵:竜歌

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