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朝日放送「必殺仕事人V・激闘編」

1985年11月15日〜1986年7月25日にABC系で放送された連続テレビ時代劇

スタッフ

制作:山内久司
プロデューサー:辰野悦央、桜井洋三
音楽:平尾昌晃
撮影:石原興、藤原三郎、秋田秀継、都築雅人
照明:中島利男、林利夫、中山利夫
特技:宍戸大全
殺陣:楠本栄一
題字:糸見渓南
ナレーター:芥川隆行
制作:朝日放送 松竹株式会社

主題歌:「女は海」作詞・作曲:京本政樹、編曲:大谷和夫、唄:鮎川いずみ
挿入歌:「恋曼荼羅」作詞:阿木耀子、作曲:宇崎竜童、唄:梅沢富美男

キャスト

中村主水:藤田まこと
何んでも屋の加代:鮎川いずみ
組紐屋の竜:京本政樹
鍛冶屋の政:村上弘明
筆頭同心田中:山内としお
りつ:白木万理
せん:菅井きん
参:笑福亭鶴瓶
弐:梅沢富美男
壱:柴俊夫
ほか

あらすじ

奉行所の取締りが厳しさを増す中、江戸は「闇の会」と呼ばれる仕事人の大組織が唯一残っていた。最後に残った組織であるだけに、その掟も厳しかった。

江戸に舞い戻った加代は、大金に釣られ「闇の会」で北町奉行殺しを請け負ってしまうのだが、昔の仲間である八丁堀同心中村主水や組紐屋の竜、花屋から鍛冶屋に転職をした政を訪ねても冷たくあしらわれてしまうのであった。

仲間を説得できないまま殺しの期限が迫ってくるが、主水や竜、政の周りでは、何者かが身辺を窺っていたのだった・・・。

解説

前作、必殺仕事人?終了から3カ月を経て再開した必殺シリーズ第25弾、仕事人シリーズ6作目の作品。?シリーズでは2作目。
組紐屋の竜を演ずる京本さんも村上弘明氏も揃って続投ながら、タイトルは前作のまま?、そこへ激闘編と付くのはレギュラーメンバーの主要な二人は入れ替えず、しかし、今作は前回以前とはまったく違う作風であるという意味であったようです。

今作は原点回帰を狙い、監督に初期シリーズを作り上げた工藤栄一氏を迎え、作風もコミカルな部分を抑えたハードなものに転換しました。

主水との奇妙なやり取りが絶妙だった上役の田中様も、特徴であったオカマっぽさが抑えられ、コミカル部分のほとんどを担っていた順之助も登場することなく、従って玉助もお新も姿を消した激闘編は、そのハードさを印象付けるように、土埃舞う中、捕まった仕事人・丁子屋半右衛門の処刑シーンから始まったのです。

姿を消した順之助とおりくに入れ替わり、新たな助っ人が参入しました。

お仕置きになった丁子屋半右衛門の配下で、壱、弐、参と名乗るはぐれ仕事人たちは、表の顔を持たず、組織が解体してしまったために「闇の会」で仕事を請け負うこともできない。そこで、主水たちが手に余る仕事を請けたときの助っ人として新たに加わることになりました。

当初、必殺シリーズ中でも主水を凌ぐほどの絶大な人気を持つ、「念仏の鉄」を復活させるという案があったそうですが、鉄を演じた山崎努氏に断られたため断念。新たに壱という登場人物を生み出し、柴俊夫氏が好演しました。鉄復活案の名残か、キャラクターも鉄を彷彿とさせる部分が多く、殺しも鉄と同じく素手で首を折るという技に。しかしながら鉄とは違った魅力で作品に色を添えました。

弐を演じた梅沢富美男氏は、?の最終回に登場する「早変りの梅富」と被るキャラクター。女形に扮しての殺しは美しく華やかさがあり、それでいて非情な印象が素晴らしいの一言に尽きます。

参は、映画で好演を果たした笑福亭鶴瓶氏。関西地方で絶大な人気を誇り、また関東でもその陽気な人柄で人気上昇中だった彼は、地の陽気さを生かしたビードロ売りに扮し、関西弁のままで、殺す直前まで人懐こい笑顔を浮かべて近寄るという、本当にいたら実は一番怖いんじゃないかと思える殺し屋でした。

主水たちとこのはぐれ仕事人が、時に反発し協力し合いながら、難関を乗り越え仕事を果たすというのが激闘編の作風だったのですが、途中から?以前の視聴者の要望もあり、緩やかに従来のパターンに戻りつつ、だがハードな部分を損なわずという路線に変更されていきました。しかしながらこの相反するような作風の稀にみる融合が、後に後期作品群でも秀逸との多くのファンの声を勝ち取ったゆえんなのではないでしょうか。

作品のハードさに合わせて、組紐屋の竜も変化しました。

平常時の髪型が、俗にいう京本かつら(正式名称・政光結い)からシケを取ったものになり、派手さは損なわれたものの上品さが際立ち、自然に揺れる前髪が人工的なシケよりもさらに乙女心を擽ったものでした。麗しいお顔が一層よく見えるようになったこともありましたが。しかしながら従来の政光結いも復活する回もあり、どの髪型なのか放送されるまで判らないという1話たりとも見逃せない展開は望むところですが、結局のところ「竜さんはおシャレなんだな」と当時納得したことを覚えています。
殺し技で特徴的だった鈴が楔形の錘に変わり、紐も赤と黒の華麗な紐から細く渋い緑色になりシャープさが強調されました。また楔に変えたことにより、平地からの攻撃も可能になったため、常に屋根に登らされていた京本さんもこれでようやく寒さを凌げ、高所からの転落危険も減るものと見ているこちらも安堵しました。

手に巻いていていたものも(?の後半は指なし手袋)、手の甲へは巻かずリストバンド型に変更されましたが手袋は中盤に復活。前作で披露した下し髪が好評だったため(?「組紐屋の竜右足を痛める」)、今作では殺しのシーンで採用、衣装は濃い紫にラメ入り(裏地はもちろん赤)、と番組の作風とは別な意味でハードな変貌を遂げたのです。

中盤以降では黒一色の衣装を多用しましたが、帯が白になったり半襟が赤であったり白であったり、胸のあたりに緑の刺繍が施されたものであったりと地味(?)に工夫が施され、見る側を退屈させません。映画ブラウン館の怪物たちで使用した衣装で登場したのも、ファンを喜ばせました。

しかしながら、従来ではたとえ旅先で人質になっていようが、いかなる状況であっても必ず衣装替えがあった殺しのシーンでしたが、衣装替えのない回もあったりと不自然さを消すためなのかなんなのか、最終的によくは判りませんが、“お約束”に囚われない自由さは見る側にもある種の緊張を醸し出しました。

旅先といえば、羽織っていた道中着が、当初は?からのお馴染みの青いものであったのに、途中から濃い小豆色のものへ変わり、益々竜の色っぽさを引き立てましたが、その変換の裏には京本さんの自己への弛まぬリサーチや、プロデュース能力の高さが窺えて興味深いところです。自伝に書かれていた、師匠である大川橋蔵さんからの継承から、自分らしさへと移り変わる過渡期であったと思うと、感慨深いものがあります。

ミステリアスでストイックな組紐屋の竜でしたが、今作では若さや人間らしさが随所に見られ、クールさは崩しませんが、声を荒げたり壱や加代をからかってみたりする姿が垣間見られたりと幅の広い竜という人物像を描き出し、益々ファンを虜にしていったのです。

竜がメインのストーリーとしては、タイトルに名前も入っている23話「組紐屋の竜、襲われる」と、21話「せんとりつ酔って暴れる」15話「主水、卵ひな人形を壊す」ですが、心に残るのは24話「主水、上方の元締と決闘する」です。

仕事人同士の対立を描いたこの作品の中で、竜は突然襲われその状況から政が裏切ったと思い込みますが、誤解であったと判ってからの仕事のシーンは今作品中でも特に秀逸で、時折鳴り響く雷鳴と相まって、光と影の使い分けにおいては右に出る者の無い必殺スタッフの凝りに凝った、明暗を駆使した映像効果には目を見張るばかりです。闘いの中での二人の心の機微が見事に描かれたこの仕事のシーンは、竜の美し過ぎる下半身と共に生涯忘れられないワンシーンとして私の心の中に残ることでしょう。

作風がいかに変貌を遂げようともその映像美は変わることはなく、仕事のシーンの美しさは今更言うまでもないのですが、今作は個々の技の特徴を生かした場面の組み立てが印象的でした。

当初の、大人数になった仕事人たち(最大6人)が、工夫を凝らして潜り込んでのアップテンポで畳みかけるような殺しの場面も圧巻ですが、中盤からの技巧を凝らして協力し合いながらの殺しのシーンも見る方を唸らせるものがありました。竜と政はもちろん、竜と壱、そして竜と主水という組み合わせもあり、意外な組み合わせには先の読めない緊張感と期待感を生みだしました。

様々な細かい工夫が施された「組紐屋の竜」は回を追うごとにその妖艶さを増していき、登場しただけでテレビが壊れるんじゃないかといらん心配をするほど、美しいだけではなく、迫力と凄味の利いた「組紐屋の竜」が生み出されていったのでした。

また、主題歌の「女は海」を京本さんが手がけ、作品中で流れるBGMから番組提供のバックの曲、オープニングもすべてご自身で作曲し、第一話から「愛した分だけ」が使われていたのには、ファンには嬉しい驚きでした。

見どころ満載で文句なしに面白いこの作品。京本さんの代表作なのは言うまでもありませんが、他にもシリーズに出演していた俳優が多数いる中、たった2作品しか出演していないにもかかわらず京本政樹といえば必殺仕事人といわれるのは、主演の藤田さんを除けば、京本さんほどこの必殺という世界観にカチリとハマる人も珍しいからではないでしょうか。その京本さんが当時、持てる魅力の全てを注ぎ込んだ組紐屋の竜。これを見ずして京本政樹は語れません。本当に。

文:桂
絵:竜歌

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