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中日劇場「音楽劇 イシマツ〜踊る東海道〜」

2002年3月2日〜24日、中日劇場で上演された音楽劇

スタッフ

脚本:斎藤雅文
演出:竹邑類
音楽:甲斐正人
作詞:竜真知子
タップ振付:藤井真梨子
振付:鈴木レイ子
製作:中日劇場

キャスト

右松・森の石松:京本政樹
清水の次郎長・枚方の茂兵衛:赤井英和
浦島太郎:斎藤暁
金毛九尾の狐:岡幸二郎
寿ひずる

解説

時は幕末。東海道。街道切っての伊達男と噂の高い「森の石松」とうり二つな「右松」(京本政樹)が、これまた街道きっての大親分と名高い清水の次郎長うり二つな、関取くずれの茂兵衛(赤井英和)と出会ったことから、物語が始まります。

ちんぴらに絡まれていた茂兵衛。食うや食わずで行き倒れ寸前だった茂兵衛は、自分を助けてくれた右松が手に持っていた折り詰めの寿司につられるかのように(?)後を追い回し、そんな茂兵衛を最初は鬱陶しがっていた右松も、次郎長そっくりな茂兵衛と、石松そっくりな自分が組めば、周りの人たちも本物の次郎長一家と疑うことなく、美味しい思いが出来るのでは…と考え直し、二人で旅をすることに。
一方、下野国黒羽藩の殿様鶴丸君の妻亀姫(トーコ)は、 幕末の動乱のさなか、自国の黒羽藩が薩摩・長州との戦いに巻き込まれぬ為にと、家宝である「満月」という霊力のある太鼓を背負い、一人、帝に会うために京の都へと旅立つ。
そんな影で、姫を狙う悪家老(和崎俊哉)と妖狐・九尾の狐(岡幸二郎)や、悪家老と結託している乳母・石藤(朝比奈順子)に姫を連れ戻すように命令される生みの親・お初(東千晃)の存在も。
怪しい侍達に囲まれた亀姫と知り合った右松と茂兵衛。姫を助けようと間に割って入ったのだが、逆に刀を抜かれ、3人とも危うし…の所で助けに入ってきたのは、どこからともなく現れた鞍馬天狗。正体不明の鞍馬天狗に助けられ、無事に逃げおおせた3人。亀姫の旅の目的を聞いた右松と茂兵衛は、動物と話が出来たり「自然」の声を聞くことが出来る姫の能力や、姫の持つ太鼓の「満月」の不思議な力に戸惑いながらも、一緒に京まで旅をすることに。

「満月」の不思議な音色に誘われるかのように現れた、旅芸人十六夜瀧之介(寿 ひずる)一座に誘われ、共に巡業を続けるが途中、乳母・石藤に言い含められた生みの母・お初が 太鼓「満月」を持ち去ってしまう。
霊力のある太鼓「満月」がなくなったことで、再び3人に近づいてくる妖狐・九尾の狐。3人が乗る船の船頭に化けた九尾の狐は、妖術を使いその船を海に沈めてしまった。
あわやおぼれ死に…と慌てた3人だが、辿り着いたのは海の底にある竜宮城。そこに待ちかまえていたのは、歴代の乙姫軍団を我が物顔に従え、贅沢な暮らしにすっかり太ってしまった欲の皮の突っ張った浦島太郎(斉藤暁)。浦島太郎に気に入られ、新しい乙姫にされてしまいそうな亀姫を助けようと、珊瑚の檻に閉じこめられていた右松と茂兵衛は浦島退治の策を練ることに。
浦島太郎を退治し、亀の背中に乗って地上に戻ったはずが、今度は狸御殿へとたどり着いてしまう。そこには旅芸人・十六夜の姿が。実はこの太鼓「満月」は十六夜瀧之介=狸の女王十六夜たちの ご先祖様の皮から作られた物だった。3人は十六夜や狸たちが鞍馬天狗や旅芸人に化け、「満月」と亀姫を守ってくれていたことを知る。狸たちの満月祭りに招かれた3人。その祭りのさなか、十六夜の娘・鞠姫と、狸一族に敵対する狐一族の王子・飛男の愛が発覚。種族を超えた二人の愛に反対する十六夜だったが、亀姫の言葉に考えを改めた十六夜は、鞠姫と飛男の二人を快く迎え入れることに。そんな様子を見ていた右松と茂兵衛は、それぞれ自分が亀姫に抱いていた想いに気づく。亀姫の事を想いつつも、姫に惚れ込んでいる茂兵衛のために、身を譲る右松。姫を冷たくあしらい、一人現世の旅に戻るが、自分とうり二つの森の石松が都鳥一家に殺されたことを知り、石松になりすますこともできない。一人途方に暮れる右松の元に、亀姫の身を乳母に託した茂兵衛が合流するが、話を聞き何かがおかしい…と察した右松は、茂兵衛を伴い、再び亀姫の元へと急ぐのだった…。

2002年3月〜の約一ヶ月間、名古屋中日劇場で公演されたこの「音楽劇イシマツ〜踊る東海道〜」は、京本さんの舞台にしては珍しい?、歌あり、笑いあり、そして勿論迫力のある殺陣あり…と、娯楽色溢れる楽しいお芝居でした。
劇中に流れるロック色の強い軽快な音楽に乗り、登場人物達が歌って踊るミュージカルシーンがあったり、鞍馬天狗や浦島太郎、狸御殿やロミオとジュリエットと言った、昔話や有名映画などのパロディ的なシーンがあったり、そうかと思えばこの物語の狂言回し、お笑いコンビ・水玉れっぷう隊演じる時次郎と場太郎のコミカルな演技や、連日進化を遂げる京本さんや出演者のアドリブ攻撃に会場は笑いの渦に。

このお芝居の見所は…と聞かれても、全てのシーンに於いて、京本さんの魅力が満載なので、さてどこを語ったら良いものなのかと悩むところではありますが、強いて言うなら後半のこの3つを挙げさせて頂きたいと思います。

【その1】今まで共に旅してきた茂兵衛や、心の中で密かに想っていた亀姫と別れた切ない心の内を、右松が一人歌い上げるシーン。森の石松の名を語ることくらいしか出来ない中途半端な自分、振り返ってみればまた一人ぼっちになってしまった右松の心を切々と歌い上げる京本さんの歌声に、物語にすっかりはまりこんでいたせいもあり、思わず涙してしまいました。アルバム「苦悩」でも聞かせてくれる甘い歌声に、酔いしれている観客も多かったはず。

【その2】現世に戻った右松が、森の石松が惨殺されたと知るシーン。本物の清水次郎長(赤井英和・二役)から石松の幽霊に間違われた右松。成仏しろと捨てぜりふを残し、逃げ去る次郎長一家を尻目に、途方に暮れお堂の脇でふて寝?を決め込む右松の横で再現される、森の石松惨殺シーン。これは京本さんの一人二役と言いますか、早変わりと言いますか…。右松はお堂の脇で寝ているはずなのに、お堂の中から現れ、都鳥一家に囲まれた本物の森の石松が京本さんご本人だったのですよ。最初は訳がわからず、え?いつのまに?とびっくりしてしまいました。都鳥一家の裏切りにあい、刃を浴び、髷を振り乱し息絶える京本さんの演技が壮絶で、場内全ての人が息を呑んでおりました。

【その3】これはもう、ラストシーンの大立ち回りでしょうか。妖狐・九尾の狐と立ち向かうも決着のつかない右松と茂兵衛。亀姫が太鼓「満月」を叩くと、狸の十六夜達が助けに現れ、月明かりの下で狸と狐の死闘が始まったり(宙に吊された三日月の上で死ぬ九尾の狐、その場面がとても美しくて、今でも印象に残ってます)、悪家老と右松の斬り合い…など、登場人物総出でのラストは、迫力があり、これぞ時代劇!と喝采を送りたくなってしまうラストシーンでした。

笑いだけではなく、迫力のある殺陣やシリアスな場面など、押さえるところは押さえた、この舞台。プライベートでも仲の良い赤井さんとのお芝居は、さすがに息もぴったりで、最初の右松・茂兵衛が出会うシーンでは、茂兵衛を追い払おうといする右松の口から「白木屋に行ってこい!」なんてアドリブも。
ハッピーエンドを迎えたエンディングシーンでは、登場人物全てが洋装にの着替えてのレビューとなりまして、カツラを脱ぎ、タキシードに着替えた京本さんのお姿も見られて、一粒で二度美味しかったかと。
右松君の扮装は、アルバム「苦悩〜paine〜」にも収められている特典映像の中でも見ることが出来ますので、是非麗しい右松君の姿を堪能して下さいね。
最後に…京本さんは、不運なことにこの開演日直前の稽古の際、ステージにたかれているスモークで喉を痛めてしまい、普通に話すこともままならない状態だったそうですが、喉を広げる薬を打ちつつも、ほぼ一ヶ月に渡る舞台を(しかも一日に昼・夜二公演のある日も多く)乗り切ったその役者魂に、今改めて敬意を払いたと思います。本当にお疲れ様でした。

長くなりましたが、音楽劇イシマツのお話はこのくらいで。迫力があって、楽しくて、それでいホロリと泣かせてくれるこの舞台、できることならば、またどこかで再演してほしいですよね。(かなり切実な望みです…)

文:藤枝
絵:竜歌

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