俳優・シンガーソングライター京本政樹ファンサイト

日生劇場「キネマの天地」

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1986年12月5日〜27日に上演された舞台。

スタッフ

原作:山田洋次 山田太一 朝間義隆 井上ひさし
作・演出:井上ひさし
製作:松竹

キャスト

京本政樹
斎藤とも子
夏木マリ 加賀まりこ
光本采雉子(幸子)
佐藤慶 小澤栄太郎

解説

京本さん、初の主演現代劇となった作品です。
『キネマの天地』といえば、同名の映画のほうが有名ですが、私は映画のほうは未見なので違いがよく判りません。ですが「料理天国」にご出演の際に、京本さんが 「映画をそのままと思われると、かなり違いましてね。監督の(映画版ではすま・けいが演じた)家の中の喜劇」と仰ってました。

映画原作者の一人でもある井上ひさしが、作演出を手がけるだけあって、脇を固める役者さんたちも、豪華でベテラン揃いです。
日本映画を代表する大スター、蒲田の大幹部女優、立花かず子に加賀まりこ、母物映画の大スター、日本のお母さん、徳川駒子に光本采雉子、妖艶なヴァンプ役人気?1蒲田幹部女優、滝沢菊江に夏木マリ、 純情可憐な若手スター、大森の夜鳴き娘、田中小春に斉藤とも子。

超特作の超大作、出来る前から奇蹟的傑作を撮影直前の映画監督、小倉虎吉郎に佐藤慶、万年下積みの売れない役者、尾上竹之助に小沢栄太郎、我らの京本さんは東京帝大法学部出の若き助監督、島田健二郎役でした。
加賀まりこさん曰く「台本が後30ページ出来てない」そうで(プロモーションで出演したニュースステーション金曜版にて)、初日まで、幕が開くのかさぞハラハラしたことでしょう。脚本家以外の方々は。 初主演でその状況ではさぞかし気を揉んだのでは?と思いましたが、本番のイキイキとした演じぶりは、そんな事情を微塵も感じさせないものでした。

kinema

物語は、女優4人が小倉監督の新作映画「諏訪峠」の打ち合わせに、築地東京劇場に呼び集められたところから始まります。「諏訪峠」をエサに1年前の舞台「豚草物語」の再演を持ちかけられた4人の女優。1年前、「豚草物語」の舞台稽古の最中に小倉監督の妻である、女優松井チエ子が頓死した。松井チエ子の日記帳には「私はK・Tに殺される」と綴ってあったという。K・Tとは、チエ子殺しの犯人は誰か?

舞台開始のベルが鳴り、口から心臓が飛び出るほどドキドキしていると、舞台上のライトに明かりがともります。動く人影に目を移すと、その人こそ京本さんでした!あまりに早い出番に、油断していた私の心臓は、体の構造が許してくれるなら本当に飛び出たことでしょう。開始間もなかったので、何となくざわめいていた客席も、水を打ったように静かになりました。
出てきただけでこの注目度。舞台俳優として、これほど強い武器を持っている人もあまりいないだろうと思われます。

私なんぞが言うのもおこがましい気がしますが、初主演現代劇という事で、非常に初々しい京本さんの演技が印象的でした。舞台上を必死で駆け回り、舞台のベテランの方々に喰い付いていく姿は、後のご活躍を想像させるものがありました。
体中から一生懸命さが滲み出ていて、見ている私まで背筋の伸びる思いで、その姿にどんどんと引き込まれるようにお話の中に入っていきました。あれだけの芸達者な人たちの中にあって、その存在感の強さと動きの美しさは、流石時代劇出身の京本さんだなと、何故か、いつも目が追ってしまいます。

売れない役者の竹之助の姿に役者の素晴しさを教えられ、反目しあっていた女優達が次第に仲良くなっていく所は、笑いの中にも深い感動と涙を覚えました。人間を見詰める、作者井上ひさしの優しい目線に素直に感動しました。
チエ子殺しの犯人がいる。というのは、実は監督と島田と竹之助が仕組んだお芝居で(チエ子の死因は心臓麻痺)、4人の女優たちに「一個の役者、一個の人間にかえって、仲よく共演しなさい」というお題目を教えるための女優教育劇だったのでした。

出すぎてはいけない(助監督役ですから)、控えめすぎても残らない、4人の女優をコントロールしながら、物語を繋いでいく(結構)難しい役どころだったと思います。
ニ幕という長丁場、ほぼ出ずっぱりの京本さん。幕が下りてカーテンコールの、爽やかな笑顔と達成感に満ちた表情が忘れられません。
また、気さくにファンの方々からの花束を受け取り握手される姿は、今と変わらぬ、ファンに優しい京本さんがそこにいました。

20年近く前の作品ですが、あの日あの劇場で見たもの感じたモノは、私の中では生涯忘れられない、幸福な夢のような時間でした。客席からの惜しみない拍手の音が、今も耳に残って離れません。
素敵な思い出を、ありがとうございました。

文:桂
絵:だんな

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