俳優・シンガーソングライター京本政樹ファンサイト

フジテレビ「銭形平次」

1966年5月4日〜1984年4月4日までフジテレビで放送された連続テレビ時代劇
京本さんは魚屋善太役で788〜867話までレギュラー出演、最終回にも登場。

キャスト

平次:大川橋蔵
お静:水野久美
八五郎:大辻伺郎
辰之助:小池朝雄
万七:遠藤辰雄
清吉:池信一
魚屋善太:京本政樹
ほか

解説

江戸は神田、明神下の岡っ引き・銭形平次の活躍を描いた捕物帖の決定版、野村胡堂作「銭形平次捕物控」。
1935年に『銭形平次捕物控 振袖源太』で映画化されて以来、幾度となく映画やドラマで映像化され、多くのファンを獲得してきました。その中でも、”銭形平次といえば、この人”というくらい最も有名なのが、今回 とりあげる大川橋蔵版『銭形平次』。
昭和41年5月4日のスタートから昭和59年4月の最終回まで、18年の長きに渡り放映され、その数なんと888回という金字塔を打ち立てた、テレビ史上に残る名作時代劇です。
ちなみにこの888という数字。制作していたフジテレビのチャンネル数が8で、水曜日の午後8時から放送されていたことにちなみ、888回をもって終了することに したそうです。

♪男だったらひとつに賭ける〜 か〜けても〜つれた謎を解く〜 
まさにこの歌のとおり、人情に厚く罪を憎んで人を憎まず。どんな時でも凛々しく颯爽と悪人を懲らしめる平次親分。 その姿は今見ても本当に惚れ惚れするくらい カッコよく、またひとつひとつの仕草がとても綺麗です。
そんな男の中の男、平次親分を軸に、飄々としたキャラクターが魅力の子分、がらっ八こと八五郎(林家珍平)。 一見意地悪だけれど、ちょっとドジで人情もろいところが何とも憎めない、ライバル万七親分(遠藤太津朗)、 沈着冷静に見えて、平次同様熱い心を胸に持つ、同心・矢吹(森次晃嗣)に 皆が集う料理屋・夢屋の面々と個性溢れる魅力的なメンバーが勢ぞろい。
加えて特筆すべきは、毎回のドラマの面白さ、です。
推理小説のような謎解きから、何ともほろりと させる人情話があったかと思えば、あっと驚く派手な仕掛けにわくわくしたり、時には江戸市中で銃撃戦を 繰り広げたりと、毎回とにかく期待を裏切らない内容には、流石888回は伊達ではないと納得させられます。


さて、前置きがかなり長くなりましたが、 京本さんは魚屋善太(さかなやぜんた)役として、788〜867話まで、と最終回・888話の計80話に出演されました。
今更言うまでもなく、この作品で京本さんが師と慕い「橋蔵先生との出逢いがなければ、今の自分はなかった」とまで言い切る恩師・大川橋蔵さんとの 最初で最後の運命的な共演を果たしました。 この作品出演以降と前では、あの独特のメイクはもちろん、着こなしや台詞回し、時代劇特有の様々な所作など、色んな面で大きな変化が見られることからも、 与えた影響(教わったもの)の大きさが窺われます。


ちょっぴり長めの髷に豆しぼりをねじり鉢巻風に巻き、白字で魚清と入った黒い半纏を羽織り、白い木股から すらりと伸びたこれまた真っ白な足が何とも眩しいです。
ちなみにこのいでたち、最初はずっとこのスタイルだったのが、出演が長引くにつれ、半纏が綺麗な水色に 変わったり、冬になるとほぼ毎回違う着流し姿など、一介の魚屋とは思えないお洒落振りを見せてくれ、 恐らく京本さんがこれまでに出演された、数多い連続時代劇の中では群を抜く出番の多さとともに、そちらの面でも大いに楽しませてくれます。


大きな声と爽やかな笑顔でいつも元気いっぱいな善太のいちばんの魅力は、なんといってもあの一生懸命さ。 市中を駆けずり回る姿から、張り込み、八五郎や親分と和気藹々としている時でさえ、もう全身から 元気オーラが出まくりです。善太同様、まだまだ時代劇役者としては駆け出しだった、当時の京本さんの 初々しさ、一所懸命さが、台詞や立ち居振る舞いの端々からひしひしと伝わってきます。 落ち込んだ時でも、この姿を見ればたちどころに元気が出る!くらいの 溌剌さがたまりません。
また、ひとつひとつの表情がもうとにかく可愛い! たまに唇を尖らせて拗ねている時など、思わずジタバタしたくなるほどの愛らしさです。
そんな善太のもうひとつの魅力は、とにかく弱いこと(笑)。情報を得るためや人質を助けようと忍び込んだ先で逆に捕まる、なんてのは朝飯前。 尾行をしていても途中で撒かれてしまったり、時には悪人に知り合いがやられそうになっても、恐々見てるだけということも。
何の武器ももたない魚屋さんなので、当たり前と言えば当たり前なのですが、しかし、そこが逆に何とも言えない 魅力です。
やせっぽっちで弱っちいくせに、口だけはとにかく達者な善太。毎回のように繰り広げられる、八五郎こと 八兄ぃとのやりとりや、夢屋での大口を叩く姿なども密かに楽しい見どころのひとつです。
そんな善太もシリーズ終盤では、八五郎役の林家珍平さんの怪我もあってか、怪我をした八兄ぃの代わりに遂に 十手を預かる身にまで成長します。その初登場時の初々しさとは比べ物にならない、驚くほどの成長ぶりには、まるで我が子の成長を 見届けるようで、思わずほろりときてしまいます。

とにかく随所に初々しく若さいっぱいの魅力がつまりまくった、全篇見どころ満載なシリーズの中でも特にお薦めは、この3本。
善太初登場にして、いきなりの主役(!)で最初から最後まで目が離せない、788話「藤娘の謎」
可愛らしい旅姿と、怪我をしたせいで珍しくしおらしい様子が何ともたまらない、830話「みちのく御用旅」
騙されているとも知らずに、健気に恋する娘の世話を焼いた挙句、頭に風車を挿し市中をスキップ姿で駆け回る姿から、見ごたえたっぷりな大立ち回りに劇中歌も聴ける、という ファン必見の848話「自慢にならぬ初手柄」

そして、上記3本とは別にもうひとつ、これだけは外せないのが感動のラスト888話。
美空ひばりさんを始め、平次ゆかりの豪華ゲストが多数出演し、京本さんも魚屋善太役でレギュラー出演時から、一回りもふた回りも成長した 姿をたっぷり見せてくれています。
見ごたえ十分な本編はもちろん、何と言っても圧巻はエンドロール。ラストカットを撮り終えた直後から、大勢のスタッフ、ファンが拍手で見守る中、東映撮影所内を主役の大川橋蔵さんとお静役の 香山美子さんを先頭に出演者一同が練り歩く姿が映し出され、その感無量な様子に改めて18年という歳月の重さが伝わってくるようで、じーんと胸が熱くなります。

ともかく、色んな意味で時代劇役者・京本政樹の原点といえる「銭形平次」。再放送はもちろん、いつかDVD化される日が くることを願ってやみません。
あのクールな仕事人からは 決して想像もつかない、元気いっぱいやんちゃ坊主な善太、大好きです!

文:紫苑

大阪新歌舞伎座 大川橋蔵特別公演「鬼あざみ恋灯籠」

テレビ東京「斬り捨て御免!2 初回スペシャル」

1981年4月10日に放送された、テレビ時代劇「斬り捨て御免!2」の初回2時間スペシャル

スタッフ

脚本:鈴木生朗
監督:森一生

キャスト

花房出雲:中村吉右衛門
宇部伝十郎:川崎公明
勘兵ヱ:小島三児
天真:中村玉緒
大和守:佐藤慶
新堂小弥太:京本政樹
ほか

解説

江戸市中八百九十九個所に設置された武家番所。その中でも享楽外に面した三味線堀の三十六番所。
ここは喧嘩・揉めごとの仲裁など、庶民のお助け的な些細な事件が多いことから、”どぶさらい番所”という不名誉なあだ名がつく一方で、実は江戸で唯一斬り捨て御免が許された、知る人ぞ知る鬼番所でもあった。
その鬼番所を舞台に、頭取・花房出雲(中村吉右衛門)と番士達の活躍を描いた『斬り捨て御免』。
タイトルどおり、毎回これでもか!と悪人を斬り捨てる本格時代劇として好評を得、半年後に再び製作された『新斬り捨て御免』。 京本さんは、シリーズ初回2時間スペシャル(再放送では前・後編として放映)にゲストとして出演されました。

首を絞められ、喉を切られた若い女の死体が乗った小船が発見される事件が発生。顔を潰され、元結いも切るほど身元を隠す工作がされていたが、瓦番屋の勘兵衛(小島三児)が見たという蝶々のアザから、大奥に奉公に上がっていた甲州屋の一人娘・お浪と判明。
出雲は事件のあった川に花を手向ける、謎の御高祖(おこそ)頭巾の女性と出会い、後をつけるが武士達の襲撃に遭う。女が逃げ込んだ先は壽命院という寺で、どうやら事件と関わりがあるらしい。
そんな折、新人番士・新堂小弥太が、壽命院の院主・天真(中村玉緒)が所持する笛袋と同じ古金蘭の守り袋を身に着けていたことに疑問を抱いた出雲は、小弥太の父を尋ね彼の出生の秘密を知る。
一方、壽命院の秘密を探るため、潜入した関大介(長門勇)により、側室・お加代の方(中島ゆたか)と大和守(佐藤慶)の恐るべき企みが明らかに。彼らの陰謀を阻止するべく、出雲は小弥太に遂に三十六番所の秘密を明かし、壽命院へと向かった……。

デビュー以来4作目の時代劇となった、この作品で京本さんが演じたのは、新人番士・新堂小弥太。
『META時代劇』にて”この頃には時代劇の勉強を重ねた成果で鬘姿もサマに”と述懐されているように、同心特有の中剃りの鬘姿が、役柄同様きりりと初々しい感じにとてもよく似合っています。
更に、この作品では目張りが入っていない、という大きな特徴が(笑)。けれども、その清々しい目元や、台詞回しや立ち居振る舞いひとつひとつが、真面目で正義感が強く若竹のような好青年、という小弥太の性格を反映したような一途さに溢れ、見ていてとにかく気持ちがいい!
また、驚きいっぱいに目を見開いたり、唇を少し尖らせ拗ねたような顔の可憐さや、さりげなく眉を使った感情表現など、細やかな表情の変化が豊富なおかげか、何気にアップが多いのも嬉しい限りです。

芸達者な演技派のベテランに混じっての熱演は、どれも必見ですが、クライマックスでの天真の腕の中での壮絶な死、これは兎にも角にも必見です。
天真の呼びかけに息も絶え絶えに答える小弥太の声、投げ出された腕までもが、中村さんの流石!ともいうべき大熱演も手伝って、この母子が辿られねばならなかった運命の痛ましさを伝えて余りある姿に涙を禁じえません。それにしても、この時点でこれだけの死に演技を魅せてくれる凄さには、改めて死に役者としての天性を見るようで、ただただ脱帽です。

その他にも懸命に走る姿や、飲み屋の女将に甘える姿など色々見どころ満載な、若き日の京本さんの魅力がたっぷりつまった、かなりお薦めな1本です。

最後に、ドラマの内容とは無関係ですが、全編を通じで出演者が台詞を発するたび、画面に流れる白い息に、当時の寒中を押しての撮影の苦労が偲ばれ、頭が下がります。

文:紫苑

フジテレビ「土曜ナナハン学園危機一髪・UFO飛んだ!」

単発ドラマ枠、土曜ナナハン学園危機一髪(毎週土曜日19:30〜20:54)の中で1980年9月20日に放送されたドラマ。

キャスト

黒沢年男、京本政樹、岡田奈々

解説

フジテレビが『単なる学園モノとしての括りではなく、若い人を主役にしたドラマを作りたい。子供たちの意識を盛り込み、ドラマ作りを通じて現代っ子の価値観をともに模索したい』との意図で1980年4月にスタートした学園危機一髪シリーズ。
それまでの青春ドラマにありがちな、簡単にわかり合い、涙する安易な青春の拒否、という意気込みで始まったこのシリーズは、毎週土曜夜7時30分開始にちなみ、「ナナハン・ドラマ」と呼ばれ、当時としては珍しい90分1話完結方式で今日の2時間ドラマのさきがけとなりました。

今回紹介する「UFO・翔んだ」はこのシリーズ最終話。
東京のとある高校のUFO研究会を舞台に、様々な悩みや将来への不安を抱えた生徒たちが、田舎にUFO発見と称した夏合宿に出掛け、そこで出会った老人たちとその世話をする若い女性とのふれあいを描いた一風変わった青春ドラマです。
京本さんが演じたのは準主役のUFO研究会部員・三田村光一。高3という人生の岐路でやりたいことも見つけられず、母一人子一人である母親との葛藤に悩み、皆が田舎の開放感ではしゃぐ中、1人もの思いに沈んだりもするちょっと翳のある役どころです。
まだ少年のあどけなさが色濃く残る、メイクも殆どない素顔が初々しい京本さん。台詞回しや何気ない仕草にもまだまだ駆け出しの感が漂う中、あの今にも吸い込まれそうな目力と表情の豊富さが既にあることに驚かされます。主役である教師役の黒沢年男さんや、老人役の宮口精二さんとのシーンでは、こちらがハッとするような印象的な表情をされているのが見逃せません。
更に、ドラマ中、白い足が何とも眩しい短パン姿(!)や、見事な倒立を披露されているシーンもあり、今では考えられない貴重なお姿に視線は釘付けです(笑)。
その他にも、デビュー間もない田中美佐子さんがちょこっと出演されていたり、こちらもある意味とても貴重な菅井きんさんの艶やかな水着姿まであったりと、なかなか盛りだくさんなドラマです。

また、甲斐バンドが歌った主題歌「漂泊者(アウトロー)」は当初、番組プレゼント用にA面のみが製作されていたものが、なんと60万通もの応募が殺到し、急遽正式なシングルリリースが決まったというエピソードが残っています。

文:紫苑

テレビ朝日「若き日の北條早雲」

TBS「愛LOVEナッキー」

NHK大河ドラマ「草燃える」

1979年1月7日〜12月23日に放送されたNHK大河ドラマ。
(京本政樹さんの出演回は48話~最終話)

スタッフ

製作総指揮:斎藤暁
原作:永井路子
脚本:中島丈博

キャスト

源頼朝:石坂浩二
北条政子:岩下志麻
北条義時:松平健
北条保子:真野響子
伊東佑之:滝田栄
源頼家:郷ひろみ
茜、小夜菊:松坂慶子
安達盛長:武田鉄矢
三浦義村:藤岡弘
公暁:堀光昭
駒若丸:京本政樹
ほか

解説

いいくに作ろう鎌倉幕府、と子供の頃に覚えた人は多いはず。いいくに1192年に源頼朝が征夷大将軍に任官され始まったとされる、鎌倉時代。その鎌倉時代の創生期を源氏三代を中心に描いた第17作大河ドラマ『草燃える』。
1年という長いスパンの大河ドラマでは、歴史上の1人にスポットを当て、その人物の幼少から死までを描くことが多いですが、この作品では源頼朝の一代記ではなく、頼朝と妻・政子を中心に北条家や御家人など東国武士達のドラマとして仕上がっているのが 特徴です。これは、第15代大河ドラマ『風と雲と虹と』で後半多くの演出を手掛けた、今作のチーフディレクター大原誠氏の「鎌倉幕府樹立は平将門の弔い合戦、東国武士の悲願」という思いが強く反映されたものとも言えます。 そのため、源氏一家だけでなく北条氏を中心とした鎌倉御家人同士の争いや、鎌倉と朝廷との駆け引きに絡む朝廷の動きなどが丁寧に描かれ、1年を通じ非常に見ごたえのあるドラマになりました。
また、権謀術数を弄し鎌倉幕府第2代執権として、北条氏による執権政治を確立させた北条義時にスポットを当てた貴重な作品でもあります。 純朴な好青年から数々の政争にもまれるうち、次第に冷徹な権力者へと変貌していく様を見事に演じた若き日の松平健さんの熱演は必見です。

大河ドラマといえば、何といってもそうそうたる出演者が魅力のひとつですが、大河常連がズラリと並んだ主要キャストのみならず、多彩なゲストも話題となりました。
ほんの一例を挙げると。悲劇の姫君・大姫には『鳩子の海』で一躍注目を集め、「山口さんちのツトム君」の大ヒットで当時国民的アイドルだった斉藤こず恵、静御前には前年の朝の連続テレビ小説『おていちゃん』でヒロインを演じた友里千賀子、 木曽義孝の側近・海野幸氏に少年ドラマシリーズ常連の長谷川論とNHKゆかりのフレッシュな顔ぶれが並ぶ一方で、源義経には国広富之、源頼家に郷ひろみと人気絶頂のアイドルを起用。更に11PMのカバーガールとして 活躍していた、かたせ梨乃が盗賊一味・小観音役、火見王役で美輪明宏等、数え上げればキリがないくらい豪華な顔ぶれです。
その中でも『国盗り物語』以来の大河出演で大役に抜擢された郷ひろみさんの鬼気迫る演技は、大女優岩下志麻さんをも 唸らせたほど。当時、トップアイドルとして過密スケジュールをこなしながらの撮影だったため、劇中頼家が危篤に陥るシーンでは本当に寝入ってしまい、岩下さんに「よく眠っていたわね」と労われたというエピソードが残っています。


と、やたら前置きが長くなりましたが。京本さんはこの作品のラスト回前3話、第48回「船霊」、49回「実朝暗殺」、50回「三浦義村の策謀」、最終回「承久の乱」に出演されました。簡単に京本さん出演の回のあらすじを。

鎌倉では執権として事実上幕府の実権を握る北条氏により頼朝挙兵以来の御家人が次々と滅亡に追いやられ、3代将軍・実朝は将軍とは名ばかりの状態と果てし なく続く政争に嫌気がさし、政治への興味を失っていた。そんな折、都で僧侶としての修行を積んでいた頼家の息子・善哉が公暁(堀光昭)と名を改め鎌倉へと 戻ってきた。
政子はすっかり成長した孫との再会を心から喜ぶが、公暁の存在が幕府に不満を持つ者たちの結束へつながることを恐れた 義時は、鶴岡八幡宮別当をあてがい追い払おうとする。不本意極まりない公暁だったが、乳父(めのと)である三浦義村(藤岡弘)に時を待てと諌められ、八幡 宮にて千日修行に励むことに。とは言うものの表向きは修行に勤しむふりをし、その実近しい僧侶らを集め武芸の鍛錬に励みつつ実朝を討つ計画を練っていた。
一方、依然鎌倉倒幕を企む後鳥羽上皇(尾上辰之助)は、実朝を右大臣に任命し、位打ち を狙う。実朝右大臣拝賀の儀式を、打倒北条の好機と狙う三浦義村は、公暁に実朝のみならず義時をも討つよう勧め、京より弟・胤義(柴俊夫)を呼び寄せ密かに挙兵の準備を進める。
一方、義時は弟・時房(森田順平 )が鶴岡八幡宮に忍ばせた僧を通じ三浦が公暁を使い実朝暗殺を企てていることを知る。 日々、死の影に怯え生きる気力を失っていく実朝を何とか救おうと願う音羽(多岐川裕美)。いつしか二人の間に本当の愛情が芽生始める。
音羽の願いむなしく果たして拝賀の儀式の日、小雪がちらつく中、実朝は鶴岡八幡宮の石段で暗殺される。
しかし、義時暗殺には失敗したため、三浦は公暁を裏切り、館に入れず、その門外で誅殺し、その首を義時に差し出したのだった。


デビュー早々にして大河ドラマに出演となった京本さん。そのきっかけは名作『男たちの旅路シリーズ第四部・車輪の一歩』オーディンションの際、NHKの廊 下を歩く京本少年を『草燃える』プロデューサーが探していた役にぴったりと見そめたという。世の中そんなにうまくいくはずないでしょ、と言いたくなるよう な 嘘のような本当の話がなんとも京本さんらしいです。ちなみにこのエピソードについては自著『META−JiDAIGEKI』に記載されています。
そんな恐ろしいまでの強運に恵まれて演じたのは、三浦義村の息子・駒若丸。
政子より養育を託された三浦家で幼い頃より兄弟のように育った善哉を成人してからも「御曹司」と呼び、京より戻った公暁を大好きなお兄ちゃんが帰って来た という嬉しさを隠しきれない弟のように出迎える駒若丸。公暁の方は、幼い頃遊んだ駒若丸が美しく成長した姿に目を奪われ、変わらず自分を慕ってくる様子に 「女なんかつまらんぞ。勝手に 嫁なんかもらったらこの俺が許さんぞ」と意味深な台詞を吐き、程なく二人は道に外れた仲に落ちることに。リアルタイムで見ていた当時は、子供故二人の関係 には全く気付きませんでしたが、改めて見返すと父の前でも人目憚らず仲睦まじく振る舞う様子に、思わず見ている方が照れてしまうほどです。

この公暁と駒若丸の再会のシーンで初登場した京本さん。衣装合わせの際、烏帽子をかぶった姿が「似合う」と周囲の人に絶賛されたそうですが、本当に惚れぼれするくらいよく似合っています。
朝の修行が終わるのを縁側に腰かけて待つ際の、再会するのが待ち遠しいという仕草や、いざ本当に再開した時の喜びに溢れた表情など、すべてが初々しさと爽 やかさに溢れています。どの表情も捨てがたいですが、特に上にあげた台詞を公暁に言われ、困ったように一瞬目を伏せすぐに目をしばたかせる表情がとにかく 絶品です。その何とも言えない色香は 公暁がそう言うのも無理からぬ、と妙に納得してしまいます。
しかし、そんな二人の思いは父・義村の一族が生き延びるための裏切りにより、無残にも引き裂かれることとなります。実朝の首を手に三浦家の門を叩く公暁の 前に立ちはだかる義村の命を受けた家臣。傷つきながらも必死に駒若の声を呼ぶその声を聞くまいと耳を塞ぐ胤義と駒若丸。遂に息絶えた公暁に「御曹 司ぃぃぃ」と絶叫するシーンは、あれだけ慕っていた 相手にどうすることもできない己の無念さがひしひしと伝わり、身を引き裂かれるような痛ましさに思わず目頭が熱くなります。
デビュー間もない頃のため、まだあの凛とした所作はないものの、何気ない横顔の美しさに目を奪われます。個人的に右大臣拝賀の式典に父とともに参上し、た だならぬ様子に「父上」と不安げに義村の袖を引く時の表情・声音がたまりません。声といえば、全編まだ少年らしさが残るぷっくりとした唇から発せられる柔 らかな声にもうっとりさせられます。

また、この実朝暗殺に絡む一連の義村と義時のやりとりは、お互い腹に一物どころか二物もそれ以上もありそうな、狐と狸の化かし合いを遥かに凌ぐ白々しさ が、 見ている側の背筋を凍らせるほどの静かな迫力に満ち溢れており、必見です。かつては無二の親友であった十郎(伊東祐之の幼少名)と小四郎(義時の幼少名) の直情的な対峙とは対照的で、もし計画が事前に義時らに漏れていなければ、平六(義村の幼少名)は義時に代わり彼以上の冷徹な執権になりえたかもしれな い、と思わせられます。


ビデオテープが非常に高価な代物であった1970年代。テレビ局は1本のビデオテープを大事に上書きしつつ使いまわしていた状況でした。そのため、長い間 この『草燃える』はNHKにも全話現存していない状況でしたが、2009年にCSにて一部放送されたことがきっかけとなり、『黄金の日々』や『風と雲と虹 と』同様、全国から貴重なテープが提供され目出度く 全話が揃うこととなりました。京本さんの初々しい姿はもちろん、大河ドラマとしても非常に優れた作品が後世に残ることに感謝したいと思います。

文:紫苑

NHK大河ドラマ総集編 草燃える [DVD]

  • 販売元:アミューズ・ビデオ( 2003-06-27 )
  • 時間:351 分
  • 3 枚組 ( DVD )

NHK「男たちの旅路・第4話『車輪の一歩』」

ご存知、京本さんの公式デビュー作品。

障害者について扱ったドラマとして未だに高い評価を受けているこの作品は、70年代に絶大な人気を誇った山田太一氏の土曜ドラマシリーズ『男たちの旅路』 第四部の最終話として作成されました。 初放映の79年から何度も再放送され、2003年秋にNHKBS-2思い出の館でも再放送されたため ご覧になった方も多いかと思います。
京本さんが演じた役で好きなものは、言わずと知れた組紐屋の竜や名張の翔、黒崎、南両医師(笑)など 色々ありますが、京本さんの出演有無の前に内容の良さで個人的にとても好きな作品です。

まずこの作品最大の見所は、何と言ってもデビュー間もない初々しいノーメイクの京本さんが拝めるということに 尽きますが(笑)、それ以前に驚かされるのが共演者の豪華さです。
シリーズ主役である吉岡指令補役の鶴田浩ニをはじめ、第四部のキーマンである警備士兄妹役に清水健太郎と岸本加世子、その同僚に柴 俊夫。 ちなみに第三部までは尾島兄妹にあたる役は水谷 豊と桃井かおりでした。これもすごいです。 そして今回のゲスト主役である車椅子の青年達にやはりデビュー直後の古尾谷雅人、斉藤洋介etc.彼らと関わりを持つ車椅子の少女に斉藤とも子、その母に赤木春恵 と今では信じられないくらい殆ど嘘のような充実ぶりです。
そんな芸達者な方々に混じり、何とも可憐に熱く奮闘する京本さん。

ドラマは6人の車椅子の青年達が109の前でたむろしているシーンから始まります。どこか拗ねたような顔で黙り込む一団の中、 赤いトレーナー姿の京本さんの少女と見まごうかの如き可憐さにまず目を 奪われます(笑)。当時20歳になったばかりの京本さん。色の白さと肌の美しさは変わりませんが、頬のあたりがちょっぴりふっくらとしてい るところにまだ少年の面影が色濃く残っているのが、とてもいい感じです。
この青年達、皆一様に淡い色や黒・グレーなどの地味な服装をしているのですが、 京本さんだけ3回も衣装替えしてるんですよね。足が不自由なため作業着以外は、下は常にジーンズですが、上は赤のトレーナーと紺のボーダーと黒Tシャツに白のシャツをはおった姿の3パターン。 古尾谷さんなんて一度も替わっていないのに。あまりの可愛さに、つい色々着せてみたくなったのでしょうか(笑)。 個人的には紺のボーダー姿がいちばんお気に入りです。

この作品で京本さんが演じるのは藤田繁男という足に障害を持ち、仕事も住む家もなくした いわばかなり追い詰められた状況にある青年です。それを現すかのように、1人で壁際にじっと座っている時は 俯き加減で目を伏せたちょっと暗めの表情が目立ちます。 けれども、根は明るいちょっと熱血漢な青年らしく、話に熱が入ったり文通相手である良子を訪ねて行くシーンなどでは、 生き生きとした時には眩しいまでの笑顔を見せてくれます。

物語は彼と同じ障害者で家から一歩も出られないという前原良子との交流を中心に、 もう1人の主役でもある障害者仲間の川島の視点をも交えて展開していきます。 川島さんが車椅子というものをネガティブなものと捉え、どこか拗ねた目で世間を眺めているのに対し、藤田クンは同じような感情を抱きつつも 常に前向きです。川島の目を通して語られる、障害者の日常に胸がつぶれそうになる一方で、藤田の あどけない少年のような、けれども一本芯の通った表情・言動にどこか励まされる。そんな不思議な感覚を憶えながらいつのまにかこの2人から目が離せなくなる。 この役に京本さんと斉藤さんを選んだNHKのスタッフの目の確かさには正直、恐れ入りました。 特に川島が母親にト〇コに行きたい、と頼むくだりは、涙なくしては見られない、私達に障害者が 向き合わさせられている現実をこれ以上ないくらい的確に突きつけてくる名シーンです。

このドラマでは、台詞の良さはもちろん出演者の何気ない表情が、それぞれ本当に豊かで それが何度見ても飽きない理由のひとつかもしれません。
例えば、尾島警備士から話を聞き、彼らに興味を持った吉岡とともに中華料理屋で卓を囲むシーン。
ビールを1口含んだ瞬間の鶴田さんの表情に注目です。苦さと旨さを噛み締めているのか、決して嬉しそうではないけれど苦りきった、のとも違う独特な表情。上手く言えないのですが、 人生の酸いも甘いも知り尽くし、ビールの本当の美味しさ・苦さを知っている紛れもない中年の男の顔とでも言うのでしょうか。そういえば最近、こういう 顔をしてビールを飲む人が少なくなった気がします。それは、それだけ人々の暮らしが豊かになったという ことの現れなのかもしれません。

と、話が横道にそれましたが。京本さんも本当に色んな表情をこの作品では見せてくれます。
その豊富さはまさに表情役者・京本政樹の原点ここにあり!といった感じでしょうか(笑)。
拗ねた顔や今にも泣き出しそうな困った顔、様々な笑顔、果ては布団の中で天井を見つめている恐ろしく美しい横顔(笑)etc.どれも魅力的なのですが、中でもお気に入りはこれ。

皆で良子を連れ出したときに起きた事件がきっかけで、藤田は良子からもう来ないでくれと言い渡されます。 家に行っても追い返され、何とか力になりたいと思った尾島は妹を行かせるのですが、それが逆に 「あなたみたいなお友達がいるのなら、私なんかと付き合うことないじゃない」と彼女を怒らせることに。 それを聞いた尾島は自分がけしかけたことを棚に上げ「ほれ見たことか」と信子をなじります。その場を 鮫島が収めようとするのですが、信子が鮫島に好意を持っていることに日頃から不満を抱いている尾島が 鮫島に食って掛かり、見かねた川島が「今はそんなこと言ってる場合じゃ」とたしなめるシーン。
この時の京本さんもとい藤田くん、言い合う3人をちょっと心配そうに目玉をキョロキョロさせて見ているのですが、それがもう たまらなく可愛い!!「まいったな、そういうことじゃないのに」と思いながらもどこか この状況を楽しんでいる感じで。その横に座る阿川クンが「あちゃー」と口だけで言ってるのと相俟ってすごく好きです。 それ以外にも良子の家の階段を背中にクッションをあてながら這い上がる時の必死な表情(笑)とか、鮫島さんや良子に熱弁ふるうシーンなど とにかく見どころ満載で、とてもこのスペースに書ききれません(苦笑)。
あ、上にあげたバー・流氷で川島が藤田に「藤田が(良子のことを)美人だなんて言うから」と からかわれ、「言わないよ」とムキなる藤田クンの表情と口調の愛くるしさも外せないことを付け加えておきます。

魅惑の振り向きも、きちんと型にはまった所作や独特の台詞回しも全くない、とても素直な表情と綺麗な話し方で一生懸命のびのびと役を演じる京本青年。 見方によってはまだまだ荒削りな部分も沢山あるのですが、でもそれが逆に藤田が持つ純粋さに上手く嵌り、本当に爽やかで気持ちよく、見るたび愛しく彼のことを応援したく なってしまいます。
そして、そんな彼の表情や仕草・台詞回しなど、ふとしたところに今日の京本さんの姿も垣間見えたりもして、色んな意味でこの作品が 原点だったのだなとしみじみ思います。また、このドラマで共演された方々とは不思議と縁があるようで、その後も何度か共演なさっている方が 多いのにも密かに驚かされます。それにしても、この役の為に練習した車椅子の扱い方が、数年後実生活で役立つ日が来るとは・・。流石に京本さんご本人も夢にも思わなかったことでしょう(笑)。

最後にこの作品が作られたのは1979年。オイルショックから立ち直り、次に来るべきバブルへの階段を少しずつ上り始めた一方で「家族の団欒」という言葉が辛うじて残っていたそんな時代。
時折映る風景や人々の様子が、当時の面影を伝えていてとても懐かしいです。
このドラマで描かれているように、一般人にとって車椅子の世界は本当に未知なもので、初めてこのドラマを見たとき 深い感動を憶えると同時に、今まで知らなかった彼らが抱えていた問題・苦労の大きさに子供心にショックを受けました。
それから四半世紀近くの歳月が流れ、国や各地の自治体ではバリアフリーが叫ばれ、 地下道や階段にはスロープが、駅や公共施設などには車椅子専用のエレベーターが設置されるようになりました。 けれども、現在周囲を見渡してみて、私達があの頃より車椅子の方が身近になったか、と問われれば正直首を傾げざるを得ません。

『どなたか、あたしを上まであげてください』

彼女の真摯な呼びかけに黙って応じてくれる人は、今どれくらいいるのでしょうか?
この話を見返すたび、そう問いかけずにはいられません。どんどん便利になる暮らしと引換えに、 私達は何かもっと大切なことを失くしてしまっているのかもしれません。

文:紫苑

テレビ朝日「江戸の牙」

テレビ朝日「ケッパリ先生 仰げば尊し」