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松竹「必殺! III 裏か表か」

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必殺!シリーズ映画第三弾。テレビシリーズでも「必殺仕置人」以降、数多くの演出を手がけてきた工藤栄一監督がメガホンを取った本作は、 「必殺!仕事人V・激闘編」をベースに、人が人を殺す だが 今は、金が人を殺すをキャッチ・コピーに、ヒーローとしての仕事人ではなく、追い詰められた主水を始めとする生身の仕事人達が、必死にあがき時に醜い姿をさらし 地に塗れる姿をハードな視点で描き切った力作です。
中村主水が主役の必殺仕事人の劇場版としては、1984年公開の「必殺! THE HISSATSU」から1996年公開の「必殺! 主水死す」まで計6本の作品が 製作されましたが、その中でも最高傑作の声も上がるくらい一般的には評価が高い作品です。


文政三年八月四日未明、南町奉行所は市中の岡場所の一斉摘発を敢行。押収した金は両替商・枡屋へと運び込まれ、江戸城へ上納されるのを主水は、同僚であり隣人でもある清原英三郎(川谷拓三)とともに見守っていた。
数日後、その清原が何者かに殺される。実は、清原は枡屋に奉行所からの預かり金を届ける裏で枡屋をゆすっていたのだった。そして清原の通夜の日、妻であるおこう(松坂慶子)が突然姿をくらます。

そんな中、枡屋で6万両もの勘定間違いの不祥事が起こり、その責任を取る形でクビになった算盤頭・彦松(岸部一徳)が一家心中を図る。彦松と親交があった政(村上弘明)に頼まれ、枡屋に足を運んだ主水は、そこで枡屋の肝煎をつとめる真砂屋徳次(伊武雅刀 )から 「金の流れが何よりも大事。金の流れこそが人の生死を決める」とうそぶかれ、憤る。その帰り道、真砂屋が仕向けた刺客に襲われたのを皮切りに、枡屋一味が仕掛けた罠に嵌っていく。ほどなく、両替商組合の長に呼び出された主水は、そこで実家である店の主人となったおこうと再会。清原殺しの下手人がわかったと告げるが、無反応な様子におこうの心変わりを知る。
ある日、真砂屋が仕向けた娘・おゆみ(野坂クミ)と関係を持ってしまった主水は、彼女に妾にしてくれるよう迫られ、断っている最中、逆上したおゆみが「中村主水は人でなしだ」と叫び寺の塔から飛び降り自殺をしてしまったことが きっかけで一気に窮地に陥る。上司からも奉行所からも見捨てられた主水を暖かく迎えたのは、意外にも普段は厳しいせん(菅井きん)とりつ(白木万理)だった。
やがて、かつての仕事人仲間・秀(三田村邦彦)からおゆみは自殺ではなく、他殺だったと聞かされた主水は、秀、政、竜(京本政樹)、壱(柴 俊夫)ら仲間とともに真砂屋一味が牛耳る江戸の闇金融との全面対決に乗り出す。



前年に引き続き、3本目の劇場公開となった本作の見どころは、当時の宣伝でも散々言われていた3点。
1.帰って来た人気者・飾り職人の秀が2年ぶりに復活。2.クライマックスでの長回しによる迫力満点の立ち回り&竜、壱、参の壮絶な殉死。3.松坂慶子がゲスト出演、しかも悪役。
これに、おこうがらみで、莫大な制作費をかけて作った巨船を一瞬で燃やしてしまう、というのも目玉のひとつでした。
個人的には、これら3点よりも(1番目の秀の復活は確かに大きな見どころのひとつです)、今回は熱い主水、これに尽きます。とにかく、こんな主水は後期テレビシリーズではついぞお目にかかれない、 と言っても過言ではないくらい、生の感情をむき出しにする姿が随所に見られます。特に印象深いのは、おゆみの件で上層部の企てにより、暴漢にただ一人立ち向かう羽目になった主水が、傷を負いながらも暴漢達を倒し、「あいにくだが……俺はこんなことじゃ死なねぇよ」と呟きながら去っていくシーン。
そこには昼行燈の面影はかけらもなく、ズタボロになりながらもどんなことをしてでも生き延びてやる、俺は負けねぇという、あくなき生への執着を漲らせたくたびれた中年男の姿。でも、それが痺れるくらいカッコイイ。
また、主水や秀が見せる人間臭い、時には生々しくさえある男と女の哀しさを描いたシーンの数々も、それぞれに大人の味・艶が溢れていて、味わい深いものがあります。おゆみがらみで、秀の知られたくない過去を偶然知ってしまった主水に対し、「おっさん、酒飲もうか?」と微笑み混じりに問いかける シーンは、互いの心情のやるせなさを見事に表現した名場面のひとつです。
更に、時間の関係で細かい説明や描写は一切、されていませんが、中村主水の危機に際し仲間である仕事人達が命を賭けて共に闘う、その姿には何度見ても胸が熱くなります。

と、ここまでやたら主水と秀のことばかりあげ、肝心の竜はどうした、と突っ込まれそうですが。
最初に一般的な評価が高い、と書いたとおり、映画としての出来栄えは3時間超のものを無理矢理2時間にしたために色々な矛盾点はあるものの、それぞれの人間模様と闇金融との壮絶なバトルを見事に描き切った力作であることは 間違いありません。
しかし、竜ファン、京本ファンにとってはあまり見たくない作品のひとつです。かくいう私もリアルタイムで劇場で見て以来、20数年を経た現在に至るまで片手で余るほどしか見ていません。
今回、これを書くために久々に見返しましたが、ひと頃よりは冷静に見られるようにはなりましたが、やはり好きというにはほど遠く。
もちろん、恐ろしく少ない出番の中でもきっちり魅せてはくれています。テレビシリーズとの違いを出す為、映画用に鬘を京本さん自ら案を出し変えていたり、着物も敢えて渋い色合いにしたりと細かい部分で色んな工夫がなされています。 とにかく出番が少ないため、見どころは映っているシーンを見逃すな、という感じですが(苦笑)。 その中でも特に、ようやく登場したシーンで秀に得物をしかける場面は、散々待たされた思いを差し引いても、組紐を投げる仕草、これぞ竜な流し目等、思わず画面に 釘づけになるくらいカッコイイ。個人的には、ずぶ濡れになりながら参の首なし死体を見やる、何ともいえない哀しみに満ちた表情も見逃せません。

そして、クライマックスの壮絶な殉死。自ら囮を買って出たものの、得物はすぐに手中を離れ、慣れない竹箒で防戦するも見るも無残な滅多斬り。転がりながら断末魔の声を上げるシーンは、何十年たっても正視に堪えません。
あの状況で竜が生き延びる、ましてや相手に撃ち勝つ可能性は限りなく低いことは、当時も今見てもわかります。が、頭で理解出来ても心がついていきません。
京本さんご自身も自著やHP等で公表しているとおり、当時の所属事務所からの独立問題に絡み、撮影中に急きょ竜が殉死する方向に台本が変更、出番が激減するという憂き目に遭いました。
この手の話は、京本さんや芸能界に限らず、一般社会でもよくあることだ、というのはあれから長い年月を経ていやというほど実感しましたし、仕方がないことだったのだろうと思います。
けれども、当時劇場で見た時に「CMや特番で散々見たシーンはどこに?死ぬのはともかく竜さん出番なさすぎ!?」と驚いた衝撃は今でも忘れられません。
四半世紀を過ぎた今となっては、これ以上あれこれ言うのはあまりに大人げ無さすぎるため控えますが、色んな意味で大人の事情、ということを教えてくれた貴重な作品です。


この映画が公開された1986年は、まさにバブル真っ盛り。日本中が金に踊り浮かれまくっていたそんな時代に、お金が持つ恐ろしさ、虚しさ、哀しさ、怒りをテーマにした作品を、時代劇、それも 必殺!で表現した製作者の手腕には見事というよりありません。
また、成田三樹夫さん、川谷拓三さん、松坂慶子さんを始めとする、時代劇には欠かせない名優揃いのゲストそれぞれの個性を活かした熱演も見逃せません。 出演者、スタッフ含め既に鬼籍となられた方々が何人もおられることが、時の流れとはいえ惜しまれます。

未だにほろ苦い思いが蘇ってくる「裏か表か」。けれども、そんな思いもすべてひっくるめて、この先も中村主水の代表作のひとつとして語り継がれるであろう、この作品に出演してくれた こと、壮絶な最期を見せてくれたことに感謝です。

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